連載

飛行機のボディを守る、複合材料の正体とは ~ 連載【月刊エアライン副読本】

文:阿施光南 写真:阿施光南
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【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

 最近の旅客機には複合材料が多く使われている。これはいくつかの材料を組み合わせて作られた材料のことで、英語では「Composite material(コンポジット・マテリアル)」という。複数の材料を組み合わせることで、ひとつの材料では実現できない優れた性質を持たせることができる。

 複合材料にはさまざまな種類があり、航空分野に限らず古くから使われてきた。たとえば鉄筋コンクリートは、圧縮には強いが引っ張りには弱いコンクリートと、引っ張りには強いが圧縮には弱い鉄筋とを組み合わせることで、圧縮にも引っ張りにも強い材料にしたものだ。また骨折などの治療に使われるギプスも複合材料だ。

 ギプスというのはオランダ語で石膏を意味し、かつては石膏を塗った綿の包帯が使われていた。これを湯に浸して石膏を包帯になじませ、患部に巻いて乾燥させるとカチカチに固まる。もし石膏だけで固めようとしたらずっと厚く重くなるだろうし、包帯だけでは十分に固定できないだろう。ちなみに最近のギプスは、綿ではなくガラス繊維でできた包帯と、石膏ではなく水と反応して固くなる樹脂を使ったものが主流だ。より軽くて丈夫、しかも固まるのが早くなった。組み合わせる材料によって、性質もさまざまに変えることができるのである。

炭素繊維は、そのままでは普通の糸と変わらない。
炭素繊維は、そのままでは普通の糸と変わらない。いくら丈夫といっても、このままでは飛行機は作れない。炭素繊維の糸を織って布のようにしても、それだけではやはりやわらかすぎる。ここに樹脂を浸透させて形を整える。右下の画像は777Xの主翼を作るためのオートクレーブ。樹脂を染み込ませて形を整えた炭素繊維に高温高圧をかけて固める。

 こうしてみると、航空機メーカーが「複合材料を使っています」というのは、漠然としすぎた説明だとわかる。鉄筋コンクリートのビルを見て、「これは複合材料でできています」というのと同じだ。「飛行機にギプスでも巻いているのですか」と突っ込みたくもなるが、「そんな感じです」と返される可能性もある。航空機に使われる複合材料には、ギプスのように繊維を樹脂で固めたFRP(繊維強化プラスチック)が多いからだ。

 FRPには、使われる繊維によってさまざまな種類があり、その繊維の頭文字を重ねて区別している。ガラス繊維ならばGFRP、炭素(カーボン)繊維ならばCFRP、防弾ベストなどにも使われるアラミド繊維ならばAFRP、石英(クオーツ)繊維ならばQFRPといった具合だ。また単にFRPといった場合には、最も一般的なGFRPをさすことが多い。

A350の外板サンプル。
A350の外板サンプル。アルミ合金の在来構造と比べるとやや厚みは大きいが、重量は大幅に軽くなっている。塗装を待つ出来立てのA350。コクピット周辺はアルミ合金だが、それ以外はほとんどがCFRPでできている。

 このうちGFRPは古くから翼の整流カバー(フェアリング)などとして使われてきた。またグライダーには、まるごとGFRPで作られた機体も少なくない。ただし旅客機の大きな荷重を支えるには強度が十分ではないので、そうした部材にはより丈夫なCFRPが使われている。そして787やA350では、こうした複合材料が機体重量の約50%を占めるほどにもなっている。それでもまだ半分かと思うかもしれないが、旅客機ではランディングギアやエンジン、電子機器や油圧装置など複合材料には適さない部品も少なくない。

 そうした部品には重い金属材料などが使われているため、見た目は小さくても重量比としてはかなりの割合を占めてしまう。軽量な複合材料の50%というのは、見た目ではほとんど全部といってもいいほど高い割合となるのだ。

グライダーでは早くからプラスチック製の機体が作られていたが、その多くはガラス繊維を使ったGFRPだった。
グライダーでは早くからプラスチック製の機体が作られていたが、その多くはガラス繊維を使ったGFRPだった。787の機首のレドームは石英ガラスを使ったQFRP。強度はあまりないが内部のレーダーの電波を通しやすい。
JALが機内で配っているプラスチック製のA350の重さは約12gグラム。
JALが機内で配っているプラスチック製のA350の重さは約12gグラム。我が家にあった小さな釣り用のオモリ(6g)2個分と同じだった。機体にランディングギアやエンジン、油圧装置など重い材料がこのくらい含まれていると、プラスチックの重量比は50%になる。

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