特集/本誌より
ダグラスDC-8 - 幕開けたジェットの時代、あふれる名門の熱情と先進性(3)
特集「Jet Airliner Technical Analysis」
非主流のテクノロジー
DC-8の胴体は二重円弧(逆だるま)断面で、キャビンのある上の円弧の直径は147インチ(374㎝)になる。これは707の胴体断面よりも1インチ(2.54㎝)だけ小さい。初期の設計案ではどちらの胴体もこれより一回り小さかったのだが、両社が競い合って大型化して、このサイズに落ち着いた。
DC-8はジェット・エアライナーの標準的なパターンが確立される以前の機体なので、いまのジェット・エアライナーに乗り慣れた人が搭乗したら違和感を持つようなところがいくつかある。
例えばいまのエアライナーなら天井側に付いているエアコンの吹き出し口や読書灯などが、DC-8では座席の背もたれに組み込まれている。酸素マスクも背もたれにあって、万一のキャビンの減圧の際には天井からぶら下がって来るのではなくて、ぽんと目の前に飛び出して来る。
いまのお客がDC-8に乗ったならば、客席窓が大きなことに感激するかもしれない。窓側以外の席からでも外が良く見える長所はあるが、代わりに窓の配置が1フレーム置きになってしまった。そのため座席ピッチによっては窓の無い席が生じてしまいかえって不評だった。現在のジェット・エアライナーでは窓を小さめにして、フレームごとに配置している。
吹き出し口や読書灯の天井設置や小さめの窓を数多く配置するのは、いずれもボーイング社が707で採用したデザインで、結果的にはDC-8のデザインは主流にはならなかった。
もう一つ主流にならなかった技術といえばエア・コンディショニングがある。707の場合キャビンの与圧には、エンジンのコンプレッサーからの抽気(ブリード・エア)を適度に減圧して利用している。DC-8でもエンジンからブリード・エアを引いて来ているが、与圧に用いているのは圧縮した外気だ。高圧空気はエアコンのコンプレッサーを駆動するのに用いる。
DC-8で特徴的な機首の左右のインテイクはこのエアコン用だ。4基のターボコンプレッサーはコクピットの下の部分に収容されている。
エンジンから直接に圧縮空気を導いたりしたら、エンジン内の燃料や潤滑油の匂いがキャビンに入るのではないかと警戒した結果、ダグラス社ではこのような複雑なシステムを採用した。しかし707の方式でも別に乗客から苦情が出るようなことはなく、ダグラス社自身これ以降のエアライナーではブリード・エア自体を減圧して利用している。要するに考え過ぎだったわけだ。
同じようにブリード・エアを利用する面白いシステムにコクピット前面の風防の除雨装置がある。ふつうの機体だったら電動のワイパーを用いるところ、DC-8では高圧空気をガラス面に吹き付けて雨粒を吹き飛ばす。しかし大量の抽気を必要とするので、エンジン推力が低下してしまうという短所があって、DC-8以外のジェット・エアライナーには採用した機体はない。
その後のジェット・エアライナーとは違う設計の流儀は他にもある。今のジェット・エアライナーでは、主翼の内側から順にフラップ、高速用エルロン、フラップ、低速用エルロンと交互に配置する主翼設計が一般的だ。
ところがDC-8の場合、主翼後縁の内側にフラップ、外側にエルロンとまとめて配置している。外翼少し内寄りにあるエルロンは二つに分割されて、スプリングで結合されている。低速では両者は一体で動くが、高速になるとエルロンに掛かる動圧がスプリングの力を超え、結果的には内側エルロンが単独で動く。すなわちエルロンは外側半分が低速専用、内側半分が高速低速兼用ということになる。
またほとんどのジェット・エアライナーでは主翼上面のスポイラーをスピード・ブレーキ(エア・ブレーキ)としても使っているが、DC-8のスポイラーは基本的に着陸滑走時の減速用で、飛行中にはブレーキとしては作動しない(低速飛行中エルロンの補助としては作動させる)。当初の設計では後部胴体にスピード・ブレーキが組み込まれていたが、テストの結果効果が薄いことが分かり、代わりにエンジンのスラスト・リヴァーサーを減速用に飛行中でも作動出来るようにした。
(続く)
※ この記事は本誌連載「Jet Airliner Technical Analysis」、小社刊「ジェット旅客機進化論」より抜粋、再編集したものです。
ジェット旅客機進化論
著者:浜田一穂 著
出版年月日:2021/09/27
ISBN:9784802210706
判型・ページ数:A5・548ページ
定価:2,860円(税込)
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