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HANEDA EXPO 2025で注目を集めた、上海益航科技(上海イーハンテック)のスマートカート「USMT」

2025年11月末、羽田イノベーションシティで開催された「HANEDA EXPO 2025」は、空港の未来を体感できる画期的な展示会として、多くの業界関係者や一般来場者で賑わいを見せた。なかでも注目を集めていたのが、中国・上海益航科技(上海イーハンテック)による、次世代スマートカート型デバイス「USMT」シリーズの展示である。同社CEOへのインタビューを交えながら、その詳細をリポートする。

文:宇山好広(本誌編集部) 写真:宇山好広(本誌編集部)※特記以外
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「日本 ようこそ」のメッセージとともに来場者を迎えたUSMTスマートカート。空港の“入口”としての存在感を放つ。

スマート空港の“入口”を担うUSMT

 上海イーハンテックは、スマート空港のデジタル運営を専門とする企業であり、USMT(航旅小U)を中核とした空港スマート化ソリューションを展開している。USMTは、単なる案内端末にとどまらず、旅客サービス、広告、運営管理、データ収集を一体化した“空港の入口”として機能する。

 展示された新世代モデルは、27インチの多目的ディスプレイと14インチのタッチスクリーンを搭載し、荷物置きスペースを備えた可動式ユニット。空港内を自在に移動しながら、以下のような多機能サービスを提供する。

・フライトサービス:室内ナビゲーション、搭乗案内通知、空港内アラート、公共サービス情報
・エンタメ機能:充電、ゲーム、小説、ニュース、映画・音楽コンテンツ、抽選プレゼント
・ブランド広告:大型ディスプレイによる動画広告やフライト情報のローテーション表示
・インタラクティブ広告:タップで遷移するカード型広告や、充電と連動したタスク型広告

フライト情報をリアルタイムで表示するUSMT。旅客の移動と情報取得を同時にサポートする。写真:上海イーハンテック
日本語対応のインターフェース。観光案内やフライト情報、買い物機能など多彩なサービスを提供する。
前後両面にディスプレイを備えたUSMTスマートカート。旅客導線に自然に溶け込む設計が特徴。

現場の声を反映した設計思想、CEOのインタビューより

 展示ブースでは、USMTスマートデバイスの開発を統括する上海益航科技(上海イーハンテック)の創業者 兼 CEO、金 洋氏が来日し、製品の背景や今後の展望について語った。

 まず、今回の展示製品については「最も重要な機能は“荷物を運ぶ”という本質的な役割にある」と強調。空港現場の声を取り入れながら、安全性と耐久性を重視した設計がなされており、ガラスパネルを含む各部材は厳格なテストを経て国家基準をクリアしているという。また、単なる運搬機能にとどまらず、ゲームやショッピング機能を搭載し、旅客がスマートフォンよりも自然に触れたくなるような“エンタメ性”も追求している点が印象的だった。

 さらに同氏は、「世界初のパネル搭載型スマートカート」であることを誇りにしつつ、「他社が模倣できない品質と体験価値を提供したい」と語る。中国の空港で培った運用ノウハウをベースにしながらも、日本市場では“現地化”を徹底する方針で、「中国での成功体験を一度リセットし、日本の文化やニーズに合わせた製品づくりを行いたい」という強い意欲を示した。

 羽田空港をはじめ、成田、関西、新千歳などの主要空港への導入を目指す一方で、「地方空港でも観光PRや地域ブランディングの一環として活用できる可能性がある」と述べ、空港の規模にかかわらず柔軟な展開を視野に入れている。

 AIRLINE webの読者に向けては、「日本の空港は世界でもトップクラスのサービス品質を誇り、そこに参入できることは我々にとって大きな挑戦であり誇りでもある」とコメント。「空港とブランド、旅客の三者がウィンウィンの関係を築けるような、新しい空港体験を日本から世界へ発信していきたい」と、今後の展望を力強く語った。

上海イーハンテックの創業者 兼 CEO、金 洋氏。製品の魅力と今後の展望について語った。
来場者の注目を集めていたUSMTスマートカート、HANEDA EXPO 2025の展示ブースにて。
最大荷重200kgと明記されたUSMTスマートカートの荷台部分。安全性を確保するため、使用上の注意が多言語で記載されている。

技術と実績に裏打ちされた信頼性

 USMTは、IRID/RFIDを活用した室内測位技術や、AI端末の多連式高速充電技術など、複数のコア特許を保有している。
 さらに、中国国内では58の空港に導入されており、年間旅客数1,000万人以上の主要空港の83.4%をカバーしているという。
 また、中国の空港向けスマートカート市場においてシェアNo.1を誇り、世界最多の導入実績を持つとされる。現場運用チームによるサポート体制や、最大20時間の連続稼働性能も、実運用を見据えた完成度の高さを物語っている。

中国・長沙黄花国際空港で稼働中のUSMTスマートカート。広告媒体としての活用とともに、安定した実運用が行なわれている導入事例のひとつだ。写真:上海イーハンテック

空港を“メディア”と“プラットフォーム”に変える、USMTの可能性

 USMTは、空港空間を活用した新たな広告メディアとしても注目を集めている。大型ディスプレイによる高頻度の動画広告配信に加え、タッチパネルを活用したインタラクティブ広告や、充電タスクと連動したプロモーションなど、旅客の“待ち時間”を“体験時間”へと変える多彩な仕掛けが盛り込まれている。

 実際に、中国の大手自動車メーカー「長城汽車」や、アリババ系スーパー「HEMA」などがUSMTを活用し、空港におけるブランド認知の拡大やECサイトへの誘導に成功している。空港という“高勢能”な空間を活かしたマーケティングモデルは、今後の空港ビジネスの可能性を広げるものとして注目されている。

 さらに、上海イーハンテックはハードとソフトの両面で自社開発を行い、AIoT管理プラットフォームやビッグデータ基盤を通じて、空港内の人・設備・広告・商業動線をリアルタイムで可視化・最適化。空港を“動的に管理する空間”へと進化させている。

 越境EC支援や都市文化メタバース構想など、空港を起点とした新たなビジネスモデルも展開中であり、空港を「移動の場」から「都市の玄関口」へと再定義する取り組みは、今後の空港の在り方に一石を投じるものとなりそうだ。

中国の空港で展開されるUSMTスマートカート。車両広告によるブランド訴求も可能に。写真:上海イーハンテック
空港での実際の利用風景。スタッフによる案内と広告表示が融合する。写真:上海イーハンテック
高級ブランドが並ぶ空港内に設置されたUSMT。広告と空間演出が融合し、旅客の目を引く。写真:上海イーハンテック

羽田から始まる、スマート空港の未来

 HANEDA EXPO 2025は、空港が単なる「移動の場」から「体験の場」へと進化しつつあることを示すイベントとなった。USMTのようなスマートデバイスが導入されることで、空港空間はよりパーソナルかつ効率的、そしてエンターテインメント性を備えた場へと変化していく可能性がある。

 こうした取り組みが羽田を起点に広がることで、今後、世界各地の空港にどのような影響を与えていくのか。スマート空港の進化とその波及に注目が集まっている。

出発ゲートで活用されるUSMTスマートカート。旅客の“待ち時間”を“体験時間”に変える。写真:上海イーハンテック

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